第1回口頭弁論

 

準備書面1

 本書は補助参加人の管理責任(火災原因に関するもの、初期消火の失敗に関するもの、消火活動の不全に関するもの、その他)のうち火災原因に関する管理責任について明らかにするものである。

 

主張の要旨

 

  1. 出火原因の特定: 那覇市消防局は、首里城火災の全容解明に向けた火災調査を行なった結果「出火原因については不明とする」と結論づけた。しかし、調査報告を丹念に読むと、出火の可能性は唯一「当該延長コード部分での電気的異常」に絞り込まれており、他の状況証拠も併せ考察すると、これを発火源とする直接的な物証がなくとも、高度の蓋然性をもって出火原因であると特定することができる。

  2. 東大ルンバール事件最判: 「訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑問を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、それで足りるものである。」(東大ルンバール事件最二小判昭和50年10月24日)。

  3. 補助参加人の管理義務違反: 延長コードとLED照明を設置したのは補助参加人である。その設置は仮設的であり、一般観覧者による引張り、踏みつけ等による断線、皮膜の劣化等による出火の危険が予見される杜撰なものであった。しかも、なぜ夜間にプラグを抜いて切電していなかったのかも疑問である。延長コードに簡単な安全対策を施し、夜間の切電を行うといった初歩的な防火対策を施していたら、首里城火災の惨事は発生することはなかったのである。

 

目次

第1 火災原因について

第2 因果関係の立証について

第3 補助参加人の重大な注意義務違反

第4 求釈明の申立て

第5 結語

 

 

第1 火災原因について

1 那覇市消防局の火災調査と出火原因

 那覇市消防局は首里城火災の全容解明に向け、徹底した調査を行ない、その結果、令和2年12月28日付にて「火災原因については不明とする。」との火災調査書を取りまとめた【甲4の1】。

 同調査書によれば、本件火災の概要は、「令和元年10月31日(木)2時33分頃、首里城正殿北東側から出火し、正殿を含む6棟が全焼、2棟が部分焼となったもの。焼損床面積3,813.41平方メートル、焼損表面積218.78平方メートルを焼損し、死者なし、軽傷1名が発生した建物火災である。」とされ、出火原因については、「後付けコンセントに接続された延長コードからLED照明のスイッチ部分までの、電圧が印加していた部分で何らかの電気的異常があり、出火原因となった可能性が考えられるが、発掘した物件や出火建物全体の損傷が激しく、発火源であると判断できる物的証拠及び着火物や延焼媒体となる物については特定できないことから、火災原因については不明とする。」と結論付けられている。

 しかしながら、火災調査書と同日付で那覇市消防局によって作成された火災原因判定書【甲4の2】を子細に読めば、本件火災の原因として考えられる可能性は、厳密な科学的検証に基づく消去法によって、「後付けコンセントに接続された延長コードからLED照明のスイッチ部分までの、電圧が印可していた部分」(以下「本件延長コード部分」という。)に絞り込まれており、経験則上、それ以外にはありえないことが判る。

 加えて、出火箇所と判定された「正殿1階北側東寄り付近」(同P7)との位置的な合致、発掘された延長コードにあった30箇所以上もの溶融痕の存在[1]、更には、上記延長コードの杜撰で危険な設置状況【甲5の1・2】といった状況証拠を併せて検討すると、本件延長コード部分の電気的異常が出火原因であることについては後述する「高度の蓋然性」の程度以上の証明をもって特定されているというべきである。

 

2 消去法による火災原因の絞り込みについて

  (1) 火災原因の抽象的可能性

 首里城の正殿は火の気のない建物であり、出火当時は無人であったため、通常での出火は考え難い。火災原因判定書は、考えうる火災原因として、たばこ、放火、電気系統の異常の3つの可能性を挙げ、それぞれについて具体的状況に基づいて厳密で科学的な検証を行っている。

 

  (2) たばこ及び放火の可能性について

 出火原因判定書は、たばこによる出火の可能性について、防犯カメラ映像に喫煙している者は確認できない事実などから、「城郭内は禁煙で指定喫煙場所があるが正殿とは離れた場所にあり、周囲には複数の人の目もあるため出火場所付近での喫煙は不可能である。」などとして、その可能性を否定している。(火災原因判定書【甲4の2】p7)

 放火についても、現場発掘時に、ライターやマッチ、時限発火装置等は見分できない事実、ガス検知器による測定で油脂類の反応は認められない事実、南地区駐車場の防犯カメラ映像に警備員以外映っていない事実などから「外部から首里城正殿付近へ入るためには正殿へ通じる門のいずれかを通らなければならないが、南地区駐車場、歓会門、久慶門、木曵門、美福門については、火災発生時は施錠された状態であったと考えられ、外部から城郭内へ侵人するのは容易ではない。また、外部から正殿へ向かう際に警備員に見つかるか防犯カメラに映ると考えられるが、そのような人物は見分できない」として、外部の者による放火の可能性を否定し、内部の者による放火についても、「城郭内には奉神門や南地区駐車場に常駐する警備員がいるが、正殿内部及び周辺の防犯カメラ映像からも21時30分以降に正殿内へ入る者は見分できないため,内部の者による放火の可能性も否定される。」などとして、その具体的可能性を否定している。(同p8)

 

  (3) 電気系統の異常の可能性について

 火災原因判定書によれば、那覇市消防局は電気系統の異常による出火の可能性が想定しうる箇所として以下の8点を挙げて1つ1つの可能性を厳密に検討している。

①イベントで使用する電機機器及び配線等

②分電盤

③送風機

④ハブボックス

⑤天井照明

⑥屋内配線

⑦正殿裏リフト

⑧延長コード及びLEDライト

 

  (4) ①イベントで使用する電気機器及び配線等について

 火災原因判定書は、「イベントで使用する電気機器及び配線等については、出火建物である正殿内にイベントで使用する電気機器や配線等の設置はなく、防犯カメラ映像にもイベント資機材からの出火は認められないことから、イベントで使用する電気機器や配線等からの出火は否定される。」としている。(同p8)

 

  (5) ②分電盤について

 分電盤には、直流電源と交流電源の2系統の電源があり、火災原因判定書では、直流電源と交流電源の出火の可能性を検討しているが、まず、直流電源については「交流電源が遮断された場合に電源が入るため、二次側で異常が起きることは無いと考えられることに加え、直流ブレーカーボックスの上の端子台接続部に断線や溶融等は認められず、直流ブレーカーボックス内においても電気配線に異常が認められないことから直流電源から出火した可能性は低い。」とされ、交流電源については、後付けコンセントのコンセントボックス内部等での電気的異常の可能性はあるものの、「仮に分電盤の一次側で短絡等の異常が起これば、交流電源、直流電源のどちらの場合も奉神門の電気室の電気室のブレーカーが作動すると考えられ、さらに、金属製の筐体内で発火しても外部へ延焼するとは考え難いため、後付けコンセントやハブボックスへの配線通過部分を含め、分電盤内部から発火した可能性は低い。」とされている。(同p10)

 

  (6) ③送風機について

 送風機は、分電盤の南方から金属製の枠とその周囲から金属部品一式が発掘されている。電気配線は短く断線しているが、溶融痕は認められないこと、更に、モーターのステーターコイルは全体的に焼損しているが、部分的な欠損や溶融痕が認められない事実、そして当日送風機のプラグはコンセントから抜かれていたという事実などから、「出火時は送風機に電圧は印加していなかったと考えられ、送風機から出火した可能性は否定される。」とされている。(同p10)[2]

 

  (7) ④ハブボックス(防犯カメラ用)について

 ハブボックスには防犯カメラ用のハブが収納され、分電盤から電気供給を受けていた。電灯分電盤の電源は16あるブレーカーのうち11は制御装置のプログラムにより21時30分に自動的に遮断されることになっていた。他の5つのブレーカーは防犯システムなど夜間も作動する必要のある電気機器に配電するため、自動的に切電することなく給電する仕組みになっていた。そのため防犯カメラは夜間も作動していたことが認められ、「実際に防犯カメラ映像が途切れる時間帯は、防犯センサー発報後に警備員が現場確認のため西之廊下のシャッターを解放した後である」。そして「仮にハブボックスから出火した場合は、防犯センサーが異常を示す前にハブボックスの電源等が焼損し、防犯カメラの記録が途切れると考えられる」ことなどから、「よって、ハブボックスから出火した可能性は低い」とされている。(同p11)

 

  (8) ⑤後付け天井照明について

 後付け天井照明に配電していたブレーカーは制御装置のプグラムに組み込まれていなかったため、夜間も通電状態であり、正殿消灯後もスイッチ操作で点灯と消灯の操作ができる状態にあった。しかし、「正殿内の防犯カメラの映像には照明が点灯している様子は見分できない。よって、出火時に後付け照明は消灯していると考えられ、電圧は印加されていないことになるため、後付け照明本体から出火した可能性は否定される」。そして「スイッチまでは印加していたと考えられるが、金属板の保護枠に覆われた配線が断線することなくつながっていることから、スイッチや配線から出火した可能性も低い。」とされている。(同p12)

 

  (9) ⑥屋内配線について

 屋内配線については、「防犯システム以外の電気配線については全て金属の配管内に収められていることから、断線や溶融痕が様々な部分で認められるが、仮に配管内の配線から出火したとしても延焼するとは考えにくい。」とされ、「防犯システムの各センサーを繋ぐ配線については、1階天井に露出配線されているが、最初に異常を感知したのが防犯システムであり防犯センサーの配線から出火した可能性は極めて低い。よって、屋内の電気配線から出火した可能性は低い。」とされている。(同p12)

 

  (10) ⑦正殿裏リフト(椅子式階段昇降機)について

 発掘した椅子式階段昇降機の側面鉄板を外して内部を見ると、モーターその他の部品は激しく損傷して離脱しているのが見分されるが、モーター内巻線の層間短絡は見分されないことなどから、「椅子式階段昇降機内部に短絡等の異常は見分できないため、椅子式階段昇降機から出火した可能性は低い。また、椅子式階段昇降機のコンセントは差し込まれていた状態で電圧も印加していたと考えられるが、差し込みプラグ付近は原型をとどめており異常はないため、コンセント部分からの出火は否定される。さらに、配管内の電気配線に短絡痕が見分できるが、配線は金属製の配管内に収納されているため仮に配線が短絡し出火したとしても延焼するとは考えにくいことから、椅子式階段昇降機へ電源供給する配線からの出火の可能性は低い。」とされている。(同p13)

 

  (11) ⑧延長コード及びLED照明

 火災原因判定書は、「電灯分電盤の電源は21時30分に制御装置のプログラムにより自動的にブレーカーが遮断されるとのことであるが、12番から16番のブレーカーはプログラムに組み込まれておらず、通電状態であるとのこと」とし、関係者の説明によると「12番には後付け照明と後付けコンセント、ハブボックス用電源の3系統の配線をつないでいました。」とのことであり、また、「LED照明機器は、一般観覧者が通る場所なので、観覧者の邪魔にならないように部屋の西側壁面沿いに置いてありました。延長コードも邪魔にならないように後付けコンセントから北壁面沿い、西壁面沿いに這わせてありましたが、コードの固定や保護はしてありませんでした」とのことであった。

 したがって、「LED照明は延長コードを介して後付けコンセントに接統された状態であり、《清掃員》によると、スイッチを切ってプラグは抜いていないとのことから、延長コードからLED照明のスイッチ部分までは電圧が印加された状態であったと考えられ、溶融痕のある断線した電気配線や銅粒、その他金属の溶融物が複数見分されるが、延長コードとLED照明の設置状況やLED照明の配置図と発掘位置が一致するため、それらは延長コードの配線やLED照明の部品等であると考えられる。」とされている。

 更に、「延長コードとLED照明の設置場所は、一般観覧者が通る場所であり、延長コードや配線の固定や保護はしていないとのことから、引張りや踏みつけ、いたずら等による断線や配線被覆の劣化等があったとも考えられ、埃や水分等の影響による延長コードとLED照明のプラグ接続部分でのトラッキングについても可能性は否定できない。」とし、その杜撰な設置状況に照らし、断線や皮膜の劣化やトラッキング現象[3]による電気的異常によって具体的に発火源となる危険があったことが示されている。(同P14)

 

  (12) 結論について

 火災原因判定書は、火災原因となりうる可能性として、たばこ、放火及び複数の電気関係を挙げ、たばこ及び放火の可能性を否定し、複数の電気関係についても、本件延長コード部分以外での電気的異常を除き、いずれも可能性を否定ないし低いとして退けている。

 そして、本件延長コ,r..ド部分で生じた「何らかの電気的異常が出火原因となった可能性が考えられる。」として唯一、火災原因となった具体的可能性を認めている。

 これによって那覇市消防局は、厳密な科学的検証によって火災原因を消去法によって本件延長コード部分で生じた「何らかの電気的異常」であると絞り込んでいるといってよい。

 しかしながら、「発掘した物件や出火建物全体の焼損が激しく、発火源であると判断で箇所を網羅した上、その1つ1つを具体的に検証し、たばこ、放火及び「延長コードとLED照明」以外の箇所における電気系統の異常の可能性について「否定」ないし「可能性は低い」として退け、「延長コードからLED照明のスイッチ部分で何らかの電気的異常」による出火の可能性を唯一の可能性として絞り込んでいる。[4]

 但し、火災原因判定書は、これを発火源とする決定的な物証がなく、延焼媒体物の特定等ができなかったことから出火原因として特定することを回避して「出火原因としては不明とする。」としているのである。

これは前記の消去法による証明が、「延長コードからLED照明のスイッチ部分までの、電圧が印加していた部分」での「何らかの電気的異常」をもって出火原因とすることについての《完全な証明》とまではいえないという認識に基づくものであろう。

 しかしながら、後述するように、民事刑事を問わず訴訟における因果関係の認定に必要な立証の程度として求められている「高度の蓋然性」の証明は十分に達成されているといって差し支えない。

 

 

第2 因果関係の立証について

  1 高度の蓋然性の証明

 訴訟における因果関係の認定に必要な立証の程度は「高度の蓋然性」だとするのが通説判例である。[5] けだし「訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑問を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、それで足りるものである。」からである(最高裁二小判昭和50年10月24日判決・民集29巻9号1417頁【甲9】)。

 

  2 東大ルンバール事件

 上記判示は、いわゆる東大ルンバール事件にかかる最高裁判決のものであるが、その事案と原判決及び立証状況を簡単に紹介する。当時3歳の男児は、化膿性髄膜炎のため、東大医学部附属病院に入院した。男児に対しては、それまでルンバール(腰椎穿刺)による抗生物質(ペニシリン)の投与が10回施行され、その都度症状が緩快していたが、11回目のルンバール(以下「本件ルンバール」という。)の施行の際は、男児が抵抗をみせた。嫌がって泣き叫ぶ男児に対し、3人の医師らが馬乗りなどして押さえつけ、強引にルンバールが施行されたが、男児の抵抗が強かったこともあり、何度か穿刺に失敗し、終了するまでに約30分を要している。ところが、本件ルンバールが終了して約15分~20分後に、男児は、突然、嘔吐、意識混濁、痙攣発作を起こした、その後、呼吸も停止した。自発呼吸開始後、医師は、脳出血を疑って治療を開始し、脳出血に対する治療は2週間継続された。男児は無事退院したが、右手麻痺、発語障害、知能障害、性格障害等の重篤な後遺障害を残すことになった。

 1審の東京地裁は、本件ルンバールと男児の後遺障害との問の因果関係を認めたが、病院側の過失を否定して患者側の請求を棄却した。これに対し、2審の東京高裁は、過失の有無について判断することなく、因果関係を否定して患者側の控訴を棄却した。因果関係との関係で大きな争点となったのは、本件ルンバールによって男児に脳出血、後遺障害が残ったのか(患者側の主張)、それとも化膿性髄膜炎の再燃により本件発作、後遺障害が残ったのか(医療側の主張)であった。

 1審では、3名の医師による鑑定が実施され、2審ではさらに2名の医師による鑑定が実施されている(合計5名の医師による鑑定)。これらの鑑定人の中で、患者側が主張する機序を積極的に肯定する者はいなかった。むしろ、病院側が主張するように、化膿性髄膜炎の再燃によって本件発作等が起こった可能性の方が高いとする鑑定意見が大勢を占めた。したがって、鑑定人らの意見を前提とする限り、因果関係を認めることは困難な事例であったということができる(調査官解説【甲10】)。

 

  3 首里城火災の出火原因の特定

 訴訟上の証明が一点の疑義も許さない自然科学的証明ではなく、通常人が疑いを差し挟まない程度の高度の蓋然性で足りるとされていることに照らせば、着火源の物証や着火物ないし燃焼媒介物の特定がなくとも、本件延長コード部分での「何らかの電気的異常」をもって出火原因として特定することについて訴訟上の証明度として求められている「高度の蓋然性」は十分に満たしていると思われる。

 なぜなら、他の発火原因の可能性が全て完全に否定ないし高度の蓋然性をもって否定されたため、本件延長コード部分での何らかの電気的異常が、消去法によって絞りこまれた火災原因として唯一の可能性となり、他の火災原因を挙げることができない。[6] かつ、出火箇所として判定された「正殿1階北側東より付近」という位置の合致、防犯カメラ映像に写された発火現象及び30箇所異常の溶融痕や銅粒という状況証拠が認められている。

 更には、本件延長コード部分での「何らかの電気的異常」という出火原因の機序が、後付けコンセントに接続された延長コードの設置状況の杜撰さによって裏付けられている。すなわち、「(一般観覧者による)引張りや踏みつけ、いたずら等による断線や配線被覆の劣化等があったとも考えられ、埃や水分等の影響による延長コードとLED照明のプラグ接続部分でのトラッキング」によって出火することが予見しうる状況にあったのである。

 これらのことを併せると、経験則に照らし、通常人が疑問を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうる証明度としての「高度の蓋然性」があるといえるからである。[7]

 

第3 一般財団法人美ら島財団の注意義務違反について

 高度の蓋然性をもって首里城火災の出火原因となったと特定できる本件延長コード部分、すなわち、「分電盤の後付けコンセントに接続された延長コード」と「LED照明」は、平成30年12月に補助参加人が設置し、平成31年2月に正殿内の拝観順路が変更された際より使用していたものであった。[8] その設置状況は平成31年2月から5月3日までの間に一般観覧者が撮影した動画から切り取った静止画像から知ることができる【甲5の1・2】。

 家庭用の延長コードが適当に巡回通路に放置されており、それは、いかにも仮設的であり暫定的であり、見るからに杜撰といえる態様のものであった。火災原因判定書は「(その設置)場所は、一般観覧者が通る場所であり、延長コードや配線の固定や保護はしていないとのことから、引張りや踏みつけ、いたずら等による断線や配線被覆の劣化等があったとも考えられ、埃や水分等の影響による延長コードとLED照明のプラグ接続部分でのトラッキングについても可能性は否定できない。」とされている【甲4の1】。[9]

 しかも、LED照明に接続されていた当該延長コードは、写真で見る限り一般に市販されている家庭用のものであり【甲5の1・2】、耐久性と安全性において業務用のものに比べて遥かに劣る。本件延長コード部分において何らかの電気的異常が生じる高度の危険があったことは明らかであり、これが出火原因となって火災が惹起されうることについても一般人の通常の注意をもってしても十分予見可能であった。しかも、極めて容易な措置をとることで危険を回避しえたのである(例えば、延長コードを金属管に収納して壁際に固定するとか、夜間はプラグを抜いて切電するとか、後付けコンセントを21時30分に遮断されるブレーカーに接続して設置するとか【求釈参照】)。補助参加人の重大な注意義務違反は一見して明らかである。

 よって、首里城の防火にかかる管理責任を有する補助参加人は、速やかに延長コードや配線を金属管に収納して壁際に固定するなどの安全措置を施し、観光順路を通行する一般観覧者が延長コードを踏んだり引っ張ったりして当該延長コードの断線等によるショートやトラッキング現象による電気的異常によって出火する危険を除去する施設管理上の責任を有していたといえる。

 更にまた、出火建物である正殿においては、分電盤の電源は21時30分に制御装置のプログラムにより、防犯カメラなど夜間も稼働が必要な一部の設備の電源を除き、自動的にブレーカーが遮断されることになっていたことが確認されている。これは、21時30分以降は、正殿内では夜間必要のない電気機器の電源を落して通電しないことで、夜間の電気的異常による出火を防止するルールがあったものと解される。ところが、LED照明に限って同ルールは遵守されず、閉館後に清掃員がLED照明のスイッチを切っていただけで後付け  コンセントからプラグを抜いて電源を落としていなかったことが確認されている。[10]

 首里城公園の指定管理者として正殿等の首里城の建物を管理する責任を有していた補助参加人は、速やかに、前記防火措置を施した上、かつ、当該延長コードが夜間の出火源にならないようLED照明のコンセントを抜いておくべきだったのにもかかわらず、漫然これを放置して怠り、もって当該延長コードからの出火を惹起した注意義務違反が認められる。

 補助参加人が本件首里城焼失によって生じた損害を賠償する責任を負っていることは余りにも明らかである。

 

第4 求釈明の申立て

  1 本件延長コード部分の固定化について

 正殿北側の拝観順路に置かれていたLED照明及び分電盤に後付けされたコンセントとLED照明を接続する家庭用のものと思われる延長コードは、平成30年12月に補助参加人によって設置されたものであるが、令和元年10月31日に本件火災が発生するまでの間に、当該LED照明と延長コードについて、どのような安全対策を施していたのか(例えば、延長コードを金属管に収納して壁沿いに固定化し、一般観覧者から踏まれたり、引っ張られたりしないよう処置していたなど)、について明らかにされたい。[11]

 

  2 LED照明のコンセント(延長コードのプラグ)の抜き差しについて

 首里城正殿の清掃員は、正殿北側に設置されたLED照明につき、火災当日の夜はスイッチを切るだけでプラグを抜いて電源を切電していなかったことが確認されている。[12] 正殿の灯火配電盤からの配線(21時30分に自動的にブレーカーが遮断する制御プログラムに組み込まれているもの)と繋がっている他の照明と同じく、補助参加人が設置したLED照明も閉館後の夜間(21時30分以降)はコンセントを抜いて電源を落とす決まりだったのではないかと思料する(なお、LED照明と同じく分電盤の後付けコンセントから電源をとっていた送風機については当日の夜も警備員がプラグを抜いて切電していたことが確認されている)。

 果たして、警備員は、本件火災があった夜に限って補助参加人の指示に反し、分電盤の後付けコンセントに接続していたプラグを抜いて電源を落とすことを怠ったのか、それとも補助参加人はもともと警備員に対し、夜間、LED照明のコンセントないし延長コードのプラグを抜くよう指示していなかったということなのか。そのいずれかについて明らかにされたい。[13]

 

  3 後付けコンセントを24時間通電のブレーカーに接続した理由について

 正殿の電源は防犯カメラなど24時間給電が必要な設備を除き基本的に夜間はブレーカーが遮断して自動切電されることになっていたことが確認されているが、補助参加人が2018年(平成30年)12月にLED照明などとともに設置した後付けコンセントは自動切電されるブレーカーではなく、24時間通電のブレーカーに接続する仕様で増設されていたことが確認されている。

 まず、正殿の電源が防犯カメラなどの例外を除いて夜間(21時30分以降)切電される仕様であったことは、夜間の電気的異常による出火を回避する目的によるものと思われるが、そのように理解して間違いないかどうか返答されたい。

 そして上記目的があったにもかかわらず、後付けコンセントの電源を制御装置のプラグラムに組み込まれていない24時間通電のブレーカーより給電する仕様にしたのは何故なのか。その理由について明らかにされたい。

 

  4 補助参加人らが作成提出した消防計画等について

 原告らの次回以降の主張課題(初期消火の失敗、延焼の拡大、消防の不全)に関係することであるが、補助参加人が警備員に配布していた警備巡回マニュアル(再発防止委員会報告書【乙9】P124)、補助参加人が那覇市消防局に対して提出した消防計画、平成31年3.月25日提出の消防計画変更届(沖縄県議会土木環境委員会で補助参加人理事長が答弁しているもの【甲6】)、自衛消防計画(補助参加人作成)、警防計画(那覇市消防局から補助参加人に交付されたもの)、火災総合訓練実施計画書(補助参加人が作成し那覇市消防局に提出したもの)、防火計画(補助参加人理事長が前記委員会で答弁しているもの【甲6】)を提出し、その内容を開示されたい。

 なお、補助参加人がこれに応じない場合、原告らは補助参加人に対する証拠開示命令を申立て、かつ、那覇市消防局に対する文書送付嘱託等を申し立てる予定である。

 

第5 結語

 被告沖縄県知事の答弁書(令和3年11月9日付)が提出されているが、これを一読した印象を述べる。それによれば、再発防止委員会報告書【乙9】の記載を引用し、火災が正殿内に急拡大した原因については、正殿の天井高が低く、防火区画がなかったことが挙げられ、火災が延長拡大した原因についても、正殿や周囲の建築物相互の距離が近く、開口部が防火設備でない部分が多いことなどが主な要因とされ、警備員らが火災に気づいた時点では煙が正殿内に拡散して火元に近づけなかったなど、「警備員らによる活動に問題はない」などとしている。

 これによれば、一旦天井の低い正殿内で出火すれば、首里城は全焼する運命だったというがごとくであり、火災の拡大・延焼の拡大は不可抗力のごとくである。それらの危険は事前に予測できたことであれば、たとえ正殿内で出火したとしても、初期消火、延焼阻止等によって火災が拡大しないように万全を尽くすのが施設を管理する指定管理者が負っていた善管義務に基づく責任ではないのかといった疑問がますます膨らむばかりである。

 原告らは、次回以降、初期消火、延焼拡大の阻止、消火活動の円滑のためになすべき措置を補助参加人が怠っていたことを論証する予定であるが、100歩譲って、被告沖縄県知事の上記主張のなかに一抹の真実があるとすれば、首里城を火災による焼失から護るために施設管理者である補助参加人の美ら島財団が全うすべきだったことは、何よりも出火の阻止であり、およそ出火の原因となりうる危険、とりわけ正殿内の電気的異常による出火可能性の徹底的な除去であったということになる。

 しかしながら、本書面で指摘したように補助参加人は、2018年(平成30年)12月にLED照明を新設しているが、その電源をとるために分電盤に増設された後付けコンセントは夜間も切断されないブレーカーに接続されており、後付けコンセントとLED照明をつなぐ延長コードは耐久性に疑問のある家庭用のものが使用されていた。

 しかも、当該延長コードは、金属管に収納して壁面に固定するなどの安全対策も施されることなく一般観覧者が通行する拝観順路上に放置されていたのであり、更に、LED照明の電源管理に至っては、担当の清掃員にLED照明のスイッチを切らせていたものの、接続された延長コードのプラグを抜いて夜間の通電を遮断するといった出火防止の基本指示すら怠っていたのである。

 皮肉なことに被告沖縄県知事の答弁書における前記主張は、補助参加人の施設管理上の杜撰さと注意義務  違反の甚だしさをますます際立たせるものだということができよう。

以上

 

 

[1]​ 琉球新報(令和元年11月8日)は、「那覇市消防局は7日午後に開いた会見で、正殿北東にあった『分電盤』からっながる延長コードに『溶融痕』という焼け溶けた痕が30箇所以上見つかったと発表した。火災原因につながるショートを起こした痕跡を示す「短絡痕」だった可能性もあり、同局が火災原因との因果関係を慎重に調べている。』と報じている【甲7】。

[2]  補助参加人の花城理事長は沖縄県議会でこう述べている。「24時間通電している5つのブレーカーのうち1つのブレーカーは監視カメラ、分電盤用照明、分電盤に取り付けたコンセントに電気を供給しております。そのコンセントからLEDスタンドそして送風機につながっておりました。当日、送風機はコンセントから抜いておりました。」(土木環境委員会令和元年第6回定例会議事録【甲6】p6)

[3]  トラッキング現象とは、コンセントとプラグの隙間にホコリが溜まり、そのホコリが空気中の湿気を吸収することで、漏電し発火する現象のことをいう【甲8】。

[4]  再発防止委員会報告書【乙9】は出火原因について次のように記載している。「沖縄県警察も那覇市消防局も、電気設備や電気機器など出火原因となった可能性のあるものについての捜査・調査を尽くしているが、出火原因の特定にまでは至っていない。当委員会も出火原因を確定させるだけの根拠を見出すことは困難だったが、正殿1階北東側の電気設備及び電気機器の利用状況等を踏まえると、出火時に通電していた予備ブレーカーにがっていた電気設備又は電気機器のいずれかのトラブルが出火原因である可能性は否定できないと考える。」(同p85:第4章首里城火災の原因・延焼拡大の要因と再発防止のための課題)

[5]   なお、一点の疑義も許されない自然科学的証明の程度が100%だとすると、「高度の蓋然性」の証明度は80%程度で足りるといわれている。

[6]  これはつまり、誰も経験則上首肯しうる「他の合理的な出火原因」を挙げることができないということである。なお、那覇市消防局が取り上げなかった工作員放火説、遠隔操作説、阻石説、火の玉説、妖怪キジムナー説といったものは排除する。本件延長コード部分での電気的異常による出火を否定することは、首里城火災の火災原因をこれらの「不合理な可能性」に求めることになる。

[7]  刑事事件であるが、いわゆる和歌山カレー毒物混入事件では、直接的な物証も目撃証言もなく、動機も不明のまま、消去法と状況証拠の積み重ねによる「合理的な疑いを差し挟む余地のない程度」の立証が認められ、被告人林真須美の死刑が確定している(最三小判平成21年4月21日集刑296号391号【甲11】)。これも《完全な立証》とはいえずとも、高度の蓋然性をもって事実が立証された事案であると解される。【甲12】

[8]  補助参加人の花城理事長は沖縄県議会で次のように述べている。「次にLEDスタンドの状況を説明いたします。今年2月の御内原開園に伴う正殿出口の変更に対応し、新たな出口に通じる正殿1階北東の部屋が照度不足のため、足元を照らす照明灯を設置いたしました。電気工事士の資格を持つ専門業者に照明器具取りかえ等業務として発注し、平成30年12月にLEDスタンド2基を設置し、平成31年2月より使用しております。配線コード、プラグ、コンセント等はJIS規格適合品であり、電気用品安全法に基づくPSEマーク基準に適合しています。LEDスタンド2基は24時間通電のコンセントに接続しており、当日は閉館後18時45分、清掃員がLEDスタンドの電源スイッチを切っております。消費電力は2基合わせて40ワットで、許容電力1500ワットの範囲内であります。毎回の巡回時に目視チェックをし、清掃、そして緩みなどを直しておりました。」(土木環境委員会令和元年第6回定例会議事録【甲12】)。

[9]  再発防止委員会報告書【乙9】には、警察からのヒアリング結果として次の記載がある。「なお、一般論として、電気機器や延長コード、ケーブルタップ、コンセントからも発火する危険性はあり、電気器具からの出火は古い器具や不具合が生じていた器具からの出火が多く、バッテリーが内蔵されている機器を除けばコンセントが抜かれた状態で通電していなければ出火の危険性は低いとのことであった」(同p80:第4章首里城火災の原因・延焼拡大の要因と再発防止のための課題)

[10]  火災原因判定書【甲4】は、清掃員が「スイッチを切ってプラグは抜いていない」と述べていることを認定している(同p14)。

[11]  火災原因判定書【甲4の1】には、警備員の「LED照明機器は、一般観覧者が通る場所なので、観覧者の邪魔にならないように部屋の西側壁面沿いに置いてありました。延長コードも邪魔にならないように後付けコンセントから北壁面沿い、西壁面沿いに這わせてありましたが、コードの固定や保護はしてありませんでした」との供述が記載されている(同p14)。しかし、写真【甲5の1・2】を見る限り、延長コードを北壁面沿い、西壁面沿いに這わせていたことすら怪しい。せめて金具等で固定すべきであった。

[12]  火災原因判定書【甲4の1】は、後付けコンセントから給電されていたLED照明について、電源管理を担当していた清掃員が「スイッチを切ってプラグは抜いていない」と供述していることを記録している(同p14)。

[13] ​ 再発防止委員会報告書【乙9】には、次の記載がある。「正殿内の分電盤には複数のブレーカーがあり、電気を分配していた。ブレーカーの一部を閉館後も自動的に落とす運用となっていたが、24時間通電しているブレーカーに閉館中は必要のない機器が接続しており、閉館中の通電の要否を踏まえた運用が不十分であった。自主点検をするための点検班は電気設備についても毎日適正な機能を維持するために点検を行うことになっていたが、正殿内のLED明器具のコンセント抜き差しのルールが不明確であった。スイッチを切っていてもコンセントを抜かない限り通電はされているため、機器の異常や転倒などによる出火の可能性がある。」(同p53:第2章首里城公園の施設(後編)2-5.指定管理者の消防計画3)電気設備の日常的な維持管理・点検)。